Chief blog塾長ブログ

2020.03.12

『道草によってこそ「道」の味がわかる』

『こころの処方箋』(河合隼雄著、新潮文庫)は年齢を重ねるほどに味わいが深くなる一冊です。

40番目に「道草によってこそ「道」の味がわかる」という章がある。そこに、若いときに結核になり、スポーツや学問にいそしめず、辛い思いをした優秀な経営者が紹介されている。少し長いが引用します。

  • 自分が経営者となって成功してから考えると、結核による「道草」は無駄ではなかったのである。無駄どころか、それはむしろ有用なものとさえ思われる。その時に経験したことが、今になって生きてくるのである。人に遅れをとることの悔しさや、誰もができることをできない辛さなどを味わったことによって、弱い人の気持ちがよくわかるし、死について生についていろいろ考え悩んだことが意味をもってくる。

そして河合は次のように続けます。

  • このような生き方の道として、目的地にいち早く着くことのみを考えている人は、その道の味を知ることがないのである。受験戦争とやらで、大学入試が大変であり、ここでは大学合格という「目的」に向かって道草などせずにまっしぐらに進むことが要請されているようである。しかし、実際に入学してきた学生で、入学してから頭角をあらわしてくるのを見ていると、受験勉強の間に、それなりに結構「道草」をくっていることがわかるのである。そんなことあるものか、と思われそうだが、このあたりが人間の面白いところで、道草をくっていると、しまったと思って頑張ったりするから、全体としてあんがいつじつまの合うものなのである。

この4月から高校や大学に入学する人、そして浪人生活を送る人、いろいろな4月がまもなくやってきます。大学入学のために新たな1年間が始まる人に、ぜひとも読んでもらいたい一冊です。