Chief blog塾長ブログ

2022.06.25

知れば知るほど断言できない

父の生前の話です。病気になり、2回の手術をしましたが、1回目は症例数の少ない医師の執刀で、2回目は名医(と私たち家族は思っている)の執刀でした。1回目の医師は、手術をする前から断言することが多く、「1年後には車が運転できていますよ」「1ヶ月後には~ですよ」ということをいっていましたが、術後2ヶ月後には「他の病院に行って下さい」という、ある意味で無責任な言葉でその医師との関係は切れました。2回目の医師は、全く断言しません。こちらがもどかしくなるほど断言しない。「開いてみないと分からない」「よくわからない」という彼は、その手術で目に見える腫瘍を全て取り切りました。「もどかしい」と思いましたが、よく知っていたからこそ、断言しないとことがその医師にとっての誠実さだったのだと私は思っています。

これは学習も同じです。

経験者は分かると思いますが、「この生徒は伸びそうだな」「この生徒はそれほど伸びないかな」と思っても、実際にやってみなければ伸びるかどうかは分かりません。どんな生徒でも100%伸びる方法があるならば、ぜひとも教えてもらいたいし、そういう方には大学で教科教育法について講座を持ってもらいたい(イヤミではなく本当にそう思う)。多少は「生徒の学力を伸ばす方法」(この言い方もあまり好きではない)について学んできたつもりですが、私は知れば知るほど「こうすれば伸びる」という方法は見えなくなりました。だから、「分からない」という誠実な対応を私は心がけています。

学校と違い、塾業界というのはこれがなかなか難しい。とくに、中学生の保護者の方の中には断言する人に引きつけられる人が少なくない。気持ちは分かります。不安なときは断言したり、「こうすればいい」と力強いアドバイスをくれる人に魅力を感じることも分かります。「○○月までに中学1年生の範囲は終わりますか?」と聞かれることもありますが、学習を始めて間もなかったり、体験授業で1回しか会っていない生徒のことを聞かれても分かりません。その瞬間だけを切り取っても、分からないことが多いのです。

それに50題程度のテストで到達具合が分かるはずもない。to不定詞の問題を数題解かせたからといって、その生徒がto不定詞を理解しているかどうかは分かりません。少なくとも教科教育のプロでそれが可能だと思っている人はまずいないでしょう。

人間の成長はどうなるか分かりません。手取り足取りサポートすればするほど子どもがぐれるケースもあるだろうし、放任しているが子どもが自立するケースだってあります。大切なことは、子どもの成長を見守って、成績がどうであろうと子どもを受け入れていくことだと私は思っています。帰る場所がある子どもの方が、外で自分を成長させてくれるような「戦い」に参加できると私は思っています。

Sアカデミーは全力を尽くします。しかし、「必ず」という断言はできません。